右上6番、静かな闘い【第5話】 ── 道を見つけた先に、守るべき壁があった ── (川口市・川口駅近くの歯医者/クリスタルデンタルクリニック スタッフブログ⑤)
前回は、なかなか進めなかった根に少しずつ変化が見られ、
一時的な腫れや赤みを経ながらも
最終的にそれぞれの根へアプローチできる段階まで進んだ経過を書きました。
ここまで来ると、患者側としては少し安心します。
「ようやく根の中に届いた」
「これで治療は終わりに近づいたのかもしれない」
そう思いたくなります。
けれど、根管治療では、
“根に届いたこと”と、“治療が終わること”は同じではありません。
むしろ、届いたからこそ、
それまで見えていなかった難しさが見えてくることがあります。
落ち着いてきた症状
治療を重ねる中で、
根の中の処置を続けながら、歯ぐきの状態も確認していきました。
以前ははっきりと感じていた腫れやしこりは、
少しずつ落ち着いてきていました。
歯ぐきの付け根を押したときの違和感はまだ少し残っていましたが、
赤みや腫れは目立たなくなり、
根管内の汚れも強くはありませんでした。
治療を受ける側としては、
「少しずつ良い方向へ向かっているのかもしれない」
と感じる時期でした。
ただし、根管治療では、
症状が落ち着いてきたことと、
すべての問題が解決したことは同じではありません。
見えていなかった部分が、
治療が進むことで初めて見えてくることがあります。
CTであらためて確認する
治療の途中で、CT撮影も行いました。
根管治療では、歯の中を直接すべて目で見ることはできません。
特に奥歯の根は複雑です。
根が複数あり、細く曲がっていたり、
過去の治療の影響で、本来の根管の形が分かりにくくなっていたりすることがあります。
そのため、レントゲンやCTの情報は、
見えない部分を理解するための大切な手がかりになります。
今回も、根がどの方向に走っているのか、
どの部分に注意が必要なのかをさまざまな角度から確認しながら、
慎重に治療を進めることになりました。
根と根の分かれ目に見えた、穴のような部分
その後の治療で、
根と根の分かれ目に近いところに、
本来の根管とは別の、穴のように見える部分が確認されました。
奥歯の根は、一本の単純な管ではありません。
いくつかの根があり、
それぞれが違う方向へ伸びています。
そのため、根と根の分かれ目に近い部分では、
歯の内側の壁が薄く、慎重な操作が必要になることがあります。
今回、その部分から出血が見られました。
歯科では、本来の根管とは別に、
歯の内側と外側がつながってしまう状態を
「穿孔(パーフォレーション)」と呼ぶことがあります。
この言葉だけを聞くと、とても怖く感じます。
患者としても、
「穴があるということなのか」
「この歯はもう残せないのだろうか」
と不安になりました。
怖いけれど、そこで終わりではない
穿孔が疑われる状態は、
決して軽い問題ではありません。
特に根と根の分かれ目に近い部分では、
その後の炎症や感染を防ぐために、
慎重な対応が必要になります。
ただし、穿孔が疑われるからといって、
それだけで直ちに抜歯が決まるわけではありません。
大切なのは、
その部分を確認し、
出血を落ち着かせ、
必要に応じて封鎖・補修していくことです。
今回も、出血が見られた部分に対して、
まずレーザーを使用して止血を行い、
その後、ベース材で封鎖・補修する処置が行われました。
問題が見つかったときに、
その場で状態を確認し、必要な処置を重ねていくことも、
根管治療の大切な一部です。
不安定な状態を調整しながら進める
この頃の治療では、
根の中だけでなく、歯全体の状態を見ながら進める必要がありました。
根管治療中の歯は、最終的な被せ物が入る前の、
まだ不安定な状態にあります。
仮歯や仮の材料で歯を守りながら、
噛み合わせの負担を調整し、
歯ぐきの状態や出血の有無を確認しながら、
根の中の処置を続けていきます。
奥歯は、毎日の食事で大きな力を受ける歯です。
根の中の感染を減らすこと。
歯ぐきや根の周囲の反応を見ること。
仮の状態でも、できるだけ歯に無理な力がかからないようにすること。
処置を続けられる状態を保つこと。
そうした一つひとつが、
治療の経過に関わってきます。
根管治療は、根の中だけを見ているようで、
実際には歯全体を見ながら進めていく治療なのだと感じました。
進む治療と、守る治療
根管治療というと、
根の中を探し、奥へ進めていく治療という印象があります。
たしかに、それは大切です。
でも今回の経過で感じたのは、
根管治療には「進む治療」だけでなく、
「守る治療」もあるということでした。
進むべき道を探す。
届かなかった根に近づく。
感染源を減らしていく。
その一方で、
薄くなった歯の壁を守る。
穴のように見える部分を封鎖する。
これ以上炎症が広がらないようにする。
根管治療は、攻めるだけではありません。
ときには立ち止まり、
その歯をこれ以上傷つけないための判断が必要になります。
封鎖したあとに見えた変化
出血が見られた部分は、
止血を行ったうえで封鎖・補修されました。
その後の治療では、
同じ部分からの出血は落ち着き、
根の中の処置を続けられる状態になっていきました。
患者としては、ここがひとつの大きな区切りでした。
もちろん、これで完全に安心できるわけではありません。
根の先の炎症や、歯ぐきの付け根を押したときの違和感は、
引き続き確認していく必要があります。
それでも、
「穴のように見えた部分を確認し、封鎖し、その後の出血が落ち着いた」
という経過は、治療を前に進めるうえで大切な変化でした。
怖さが消えたわけではありません。
けれど、
守るべき壁を守る処置ができたことで、
右上6番は次の段階へ進む準備が少しずつ整っていきました。
今、根管治療中の方へ
根管治療中に、
「出血がありました」
「穴のような部分があります」
「補修が必要です」
と聞くと、とても不安になると思います。
私自身もそうでした。
でも、そうした言葉が出たからといって、
すぐに治療が失敗した、歯を残せない、という意味ではありません。
もちろん、慎重に見なければならない状態であることは確かです。
けれど、状態を確認し、
必要な処置を行い、
その後の変化を見ていくことで、
歯を残す可能性を探っていくこともあります。
根管治療は、一直線に進む治療ばかりではありません。
見えない道を探しながら、
必要なところで止まり、
守るべきところを守りながら進んでいく治療です。
もう一度、根の先へ
封鎖した部分が落ち着いたことで、
治療は次の段階へ進んでいきました。
ただし、それで終わりではありません。
今度は、封鎖した部分を守りながら、
それぞれの根の先へ向けて、さらに慎重に処置を続けていく必要がありました。
一度見えた道を、最後まで安全に整えていく。
右上6番の治療は、
ここからまた別の段階へ進んでいきます。
そしてその先で、
少しずつ見えてきたのは、
「完全に治ったかどうか」だけでは語れない、
この歯との付き合い方でした。
右上6番の静かな闘いは、
まだ続いていきます。


