防災袋に歯ブラシ、入っていますか? ~断水時に30mLの水で歯をみがく方法~
飲み水を優先したいとき、
歯みがきはどうすればよいのでしょうか。
少ない水でお口を守る方法をご紹介します。
停電や断水は、もう「特別な災害」の話ではありません
2026年8月14日、川口市では約750軒の停電が発生しました。8月22日には川口市を含む関東南部が激しいゲリラ雷雨に見舞われ、近隣の戸田市では1時間に約100mmという猛烈な雨が降ったとみられています。地震や台風だけでなく、落雷や集中豪雨、設備の故障などでも、電気や水道は突然止まります。
断水すると、限られた水はまず飲用と調理に使われます。歯みがきは「今はそれどころではない」と、後回しになりやすいものです。
「歯みがきどころではなかった」被災者の声
2026年に全国の20代から60代の男女1,000人を対象に行われた民間調査では、防災用品を準備している人のうち、口腔ケア用品を備えていた人は27.2%でした。実際に阪神・淡路大震災を経験した人からは、給水車の水を食事やトイレに使い、「生きるためには歯磨きなんて必要じゃないと思っていた」という声も寄せられています。
これは、決して意識が低かったからではありません。限られた水を前にすれば、誰でも同じ判断をする可能性があります。
東日本大震災後の調査で分かったこと
東日本大震災後に障害者歯科を受診した423人を対象とした調査では、普段どおりの歯みがきを中断した理由として、最も多かったのが「水がなかった」ことでした。3~7日間歯をみがけなかった人は18.0%、15~30日間中断した人も5.2%いました。
震災後3か月までにお口の困りごとがあった57人のうち、「口臭が気になった」が30人、「歯ぐきが腫れた」が20人でした。
また、2018年7月の豪雨で断水した広島県竹原市では、活動報告を執筆した歯科衛生士自身も約2週間、断水生活を経験しています。
避難所には歯ブラシがなく、入れ歯を入れたまま過ごしている高齢者もいたため、地域の歯科衛生士会が断水時の歯みがき方法をケーブルテレビで紹介しました。その動画は、水道が完全に復旧するまでの約3週間に、延べ約60回放送されています。
災害時には水分不足、食生活の変化、睡眠不足、ストレスなどが重なり、唾液が減ってお口の細菌が増えやすくなります。
むし歯や歯周病だけでなく、特に高齢者や飲み込む力が低下している方では、誤嚥性肺炎にも注意が必要です。
だからといって、歯みがきに大量の水が必要なわけではありません。
水が30mLあれば、歯はみがけます
水が限られているときは、大さじ2杯ほど、約30mLの水を紙コップに用意します。1.最初に歯ブラシを一度だけ水で濡らします。
2.歯の表面、歯と歯ぐきの境目、奥歯の溝、歯の裏側をみがきます。
3.歯ブラシが汚れたら、ティッシュや口腔用ウェットティッシュで拭き取ります。
4.「みがく、拭き取る」を繰り返します。
5.最後に、残った水を2~3回に分けて口をすすぎます。
汚れた歯ブラシをコップの水へ戻さないことがポイントです。
歯ブラシを何度も水ですすぐ必要がなく、コップに残った水も汚れにくいため、最後のうがいに使えます。
水は一度に口へ含まず、少量ずつ2~3回に分けます。歯と歯の間へ水を通すように頬をしっかり動かし、舌の上や頬の内側まで水を行き渡らせてから吐き出しましょう。
水がさらに少ない場合は、ペットボトルのキャップ1~2杯分の水や無糖のお茶を口に含み、「くちゅくちゅ」と口全体に行き渡らせます。
歯ブラシがないときは、口腔用ウェットティッシュや清潔なガーゼを指に巻き、歯の表面や歯ぐき、舌の汚れをやさしく拭き取る方法もあります。
歯みがき粉を使わない場合
水がごく少ないときは、歯みがき粉を使わなくてもかまいません。歯みがきで大切なのは、歯ブラシを動かして歯垢や食べかすを物理的に取り除くことです。
日本歯科医師会も、ペースト状の歯みがき粉はすすぎに水を必要とするため、断水時には不向きとしています。
歯みがき粉を使った場合、うがいは何回?
フッ化物配合歯みがき剤を使った場合は、歯みがき粉をよく吐き出し、うがいをするなら「少量の水で1回のみ」が推奨されています。これは「最低1回は必要」という意味ではありません。何度もうがいをすると、お口に残したいフッ化物まで流れてしまうため、平常時でも少量の水で1回が基本です。
すすぎ不要と表示された「液体歯みがき」があれば、液体を口に含んで吐き出したあとにブラッシングします。
「液体歯みがき」と「洗口液・マウスウォッシュ」は使い方が異なります。防災袋へ入れる前に、商品の表示と使用方法を確認しておきましょう。
使い終わった水は再利用できる?
歯みがき後の水には、唾液、歯垢、細菌、歯みがき剤などが含まれています。もったいなく感じても、手洗い、洗顔、食器洗い、入れ歯の洗浄、身体を拭く水などには再利用しないでください。
下水道と水洗トイレが安全に使えることを確認できている場合に限り、トイレ用水の一部として捨てることはできます。ただし、約30mLだけではトイレを流せません。
細菌が増える可能性もあるため、歯みがき後の水を容器にためて保管することはおすすめしません。
特に地震の直後は、下水管が破損している可能性があります。水があっても、自治体から使用可能との案内が出るまでは、便器へ大量の水を流さないようにしましょう。
節水は大切ですが、感染を広げないことのほうが優先です。
防災袋に「いつものお口」を入れておきましょう
非常時に初めて使うものは、意外とうまく使えません。普段使っている口腔ケア用品を少し多めに持ち、使った分だけ補充するローリングストックが現実的です。
防災袋に入れておきたい口腔ケア用品
・家族それぞれの歯ブラシ・紙コップ
・ティッシュペーパー
・口腔用ウェットティッシュ、または歯みがきシート
・デンタルフロス、使い捨ての歯間ブラシ
・すすぎ不要の液体歯みがき
・入れ歯を使用している方は、入れ歯ケースと清掃用品
能登半島地震後に石川県内49か所の避難所で行われた聞き取りでは、歯ブラシが少ない、液体洗口液しかない、必要な口腔ケア用品に偏りがあるといった状況が報告されています。
支援物資が届いても、自分や家族に合うものがあるとは限りません。特に小さなお子さん、高齢者、入れ歯を使用している方の用品は、それぞれに合ったものを準備しておくことが大切です。
一度だけ、30mL歯みがきを試してみませんか
歯ブラシは小さく、軽く、電池も電気も必要ありません。
それでも、避難生活の不快感を減らし、お口から食べ、話し、生活を立て直していく力を支えてくれます。
今日、防災袋に家族分の歯ブラシと紙コップを入れる。
そして次の休日に、一度だけ30mLの水で歯をみがいてみる。
その小さな練習が、もしものときに「知っている」を「できる」へ変えてくれます。
日頃からむし歯や歯周病の治療を済ませ、入れ歯を調整し、お口を清潔に保っておくことも大切な防災のひとつです。
虫歯やインプラント、セラミック、マウスピース矯正、ホワイトニング、ボツリヌストキシン治療など、お口のことでお困りごとがございましたら、川口駅近く徒歩3分、3時間まで無料の駐輪場も近くにございますクリスタルデンタルクリニックまでお越しください。
参考資料
・日本歯科医師会「災害時に役立つオーラルケア用品」
・日本障害者歯科学会「東日本大震災時の障害者の歯科口腔保健における動向とその支援」
・日本老年歯科医学会「自然災害等の緊急時における歯科保健活動の課題」
・熊本市「災害時の備えについて―歯やお口の健康も大切です」
・日本小児歯科学会ほか4学会「フッ化物配合歯磨剤の推奨される利用方法」
・2026年「防災とオーラルケアに関する意識調査」
・能登半島地震の避難所49か所における聞き取り調査


