眠っている私が、私の歯をすり減らす?― 歯ぎしり・食いしばりと、まだ解けない身体の謎 ―
眠っている間に、歯がすり減るほど顎を動かす人がいます。
本人には、その記憶さえありません。
いったい誰が、何のために動かしているのでしょう。
実は、歯ぎしりには今も解き明かされていない謎があります。
今回は、そんな身体の不思議を少しのぞいてみましょう。
歯ぎしりは「ギリギリ」だけじゃない
歯ぎしりや食いしばりなど、顎の筋肉が繰り返し、あるいは持続的に働くことを「ブラキシズム」と呼びます。
あなたはどのタイプ?
歯ぎしりや食いしばりには、いくつかの特徴的な動きがあります。
まず、従来からよく知られているのが次の3つです。
① グラインディング(歯をこする)
上下の歯をこすり合わせる動き。顎を左右に大きく動かすこともあり、必ずしも音はしません。
② クレンチング(食いしばり)
上下の歯を接触させたまま噛みしめる動き。音が出ないため、気づかれにくいタイプです。
③ タッピング(歯をカチカチ鳴らす)
上下の歯を小刻みに、繰り返し接触させる動き。以前から使われている呼び方です。
歯を接触させないブラキシズムもある?
さらに、国際的な研究では、歯を接触させずに顎の筋肉を働かせる、次のような動きも取り上げられています。
④ ブレーシング(顎を固める)
上下の歯を接触させず、顎の筋肉に力を入れて、一定の位置に保つ動きです。
⑤ スラスティング(顎を強く動かす)
歯を接触させず、下顎をぐっと動かす動きです。
歯と歯が触れ合っていなくても、顎の筋肉に負担がかかることがあるのですね。
なお、ブラキシズムは、起きている間の「覚醒時」と、眠っている間の「睡眠時」に分けて考えます。
特に④⑤は、覚醒時のブラキシズムを説明する際に用いられる専門用語です。睡眠時は、筋肉の活動がリズミカルか、持続的かという点からも調べられています。
複数の動きが重なることもあり、特に睡眠中の動きは、自分の感覚だけで判断することはできません。
眠っているのに、誰が顎を動かしている?
脳が「ほんの少し目覚める」とき
睡眠中、脳の活動が一瞬だけ高まる「微小覚醒」という現象があります。本人が目覚めたと感じなくても、脳波や心拍数が変化し、それに続いて顎の筋肉がリズミカルに動くことがあるのです。
食事中、私たちは顎に「開けて、閉じて」と一回ずつ命令していません。脳幹には噛む運動のリズムを生み出す神経回路があり、睡眠中の顎の動きにも関わると考えられています。
健康な人の約6割にも?
健康な82人を調べた研究では、約6割に睡眠中のリズミカルな顎の筋肉の活動が見られました。
もちろん、6割の人が歯をすり減らしているという意味ではありません。
顎の筋肉が動くことと、歯が傷つくことは別なのです。
歯ぎしりには「良い」「悪い」がある?
ここから、さらに興味深い話になります。
脳のストレスを和らげている?
動物実験では、ストレスを受けたラットの顎の活動が、身体のストレス反応を和らげたという結果が報告されています。
また、人間の睡眠研究では、顎のリズミカルな活動の約6割に、唾液を飲み込む動作が伴っていました。呼吸との関係も研究されています。
もしかすると、睡眠中の顎の動きには、何らかの役割があるのかもしれません。
ただし、人間の歯ぎしりが脳のストレスを解消している、身体を守るために起こっている、と証明されたわけではありません。
骨隆起は、悪い歯ぎしりの証拠?
上あごや下あごの内側にできる硬い骨のふくらみを「骨隆起」といいます。
骨隆起は、歯ぎしりや食いしばりとの関係が研究されていますが、遺伝的な体質なども影響すると考えられています。
つまり、骨隆起があるから悪い歯ぎしり、なければ良い歯ぎしり、とは判断できません。
では、どんな歯ぎしりに注意すればいいの?
ここが大切なところです。
歯ぎしりをしているからといって、必ず治療が必要になるわけではありません。
大切なのは、歯ぎしりそのものよりも、歯や顎にどのような影響が出ているかということです。
気にかけてほしい、こんな変化
以前より歯がすり減ってきた、欠けやすくなった、朝起きると顎が疲れている、噛むと痛む。
こうした変化があれば、一度歯科で確認することをおすすめします。もちろん、これらの症状がすべて歯ぎしりによるものとは限りません。
歯科では、歯の摩耗や欠け、顎の関節や筋肉の状態を調べ、必要な対応を検討します。
ナイトガードで歯を保護する方法や、ボツリヌストキシン注射によって噛む筋肉の働きを一時的に弱める方法も、その選択肢の一つです。
治療の目的は、必ずしも歯ぎしりを完全になくすことではありません。歯を守る、筋肉への負担を減らす、痛みなどの症状を軽減する。それぞれの状態に合わせて目標を考えていきます。
改善への道は、継続と見直しから
長く続くお悩みが、一度の治療ですべて解決するとは限りません。
大切なのは、治療の目的を共有し、必要な期間は継続して変化を確かめること。そして、十分な改善が見られなければ、方法を見直すことです。痛みが強まる場合などは、無理に続けず早めに相談することも必要です。
人間の身体の仕組みは、長年の研究によって少しずつ明らかになってきました。それでも、まだ解き明かされていない謎が数多く残されています。
私たちは、こうした研究から得られた知識を日々の診療に生かしながら、一人ひとりの症状や小さな変化にも丁寧に目を向け、患者さんとともに改善を目指していきたいと考えています。
虫歯やインプラント、セラミック、マウスピース矯正、ホワイトニング、ボツリヌストキシン治療など、お口のことでお困りごとがございましたら、川口駅近く徒歩3分、3時間まで無料の駐輪場も近くにございますクリスタルデンタルクリニックまでお越しください。
参考文献・注釈
【注釈】
※「健康な人の約6割」は、睡眠中に顎の筋肉の反復運動が観察された割合で、歯ぎしりをしている人の割合ではありません。
※ストレス軽減に関する研究は動物実験によるものです。また、骨隆起と歯ぎしりの因果関係は確立されていません。
【主な参考文献】
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Verhoeffら(2025)ブラキシズムの定義と分類 論文全文
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Katoら(2001)睡眠中の微小覚醒と顎の運動
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Lavigneら(2001)健康な人にも見られる睡眠中の顎運動 論文情報
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Satoら(2010)顎の運動とストレス反応(ラット実験) 論文情報
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Miyawakiら(2003)睡眠中の顎運動と嚥下
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Bertazzo-Silveiraら(2017)骨隆起とブラキシズムの関連 論文情報
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Katoら(2023)睡眠時ブラキシズムの神経生理学的研究
※研究内容は、読者に分かりやすいよう日本語で簡潔に表記しています。


